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  • 執筆者の写真にき わだ

place of heart_わだ

更新日:2020年7月10日

作者:わだ

時間:90分


ミキ テレビ局アナウンサー

エリ ミキの親友、病気で入院中

コウ 記者

シゲ 刑事

タカ 爆破計画リーダー、カナの弟

カナ タカの姉

アナとメグはエリと兼ね役

民Aはコウと兼ね役

民Bはシゲと兼ね役

ミキ♀:

エリ/アナ/メグ♀:

コウ/民A♂:

シゲ/民B♂:

タカ♂:

カナ♀:













《病室。エリ、ベッドに横たわっている。ミキ、隣に座る》

ミキ 調子はどう?

エリ 少しよくなってきたかな、外に出てみたりもしてるし。

ミキ そっか、ならよかった。ご飯は食べれてるの?

エリ 大丈夫だよ、むしろご飯くらいしか楽しみないから。あ、でも最近は本を読んでるよ。

ミキ そうなの?そしたら今度何か持ってくるわよ。

エリ 本当に⁉ありがとう!楽しみにしてる。そっちはどうなの?元気?

ミキ ええ、こっちは相変わらず仕事ばっかりよ。

エリ テレビの仕事だと毎日大変そうだもんね。ミキちゃんこそご飯食べてるの?

ミキ 私は大丈夫よ、頑丈なのが取り柄だから。

エリ またそんなこと言って。いつか倒れちゃうよ?

ミキ そしたらエリと同じところで寝るわ。

エリ もう!それはそれで楽しそうだけど。 

ミキ ちょっと、心配してたんじゃないの?

エリ ごめんごめん。でもよかった、元気そうで。仕事も順調そうじゃない。

ミキ まぁね、でも……。

エリ 順調じゃないの?

ミキ いや、少し大変な仕事があってね。 

エリ さらに忙しくなるの?

ミキ ……まぁ、なんとかするわ、何とかなる。

エリ そんなに働いてたら、いつまでも彼氏できないよ?

ミキ いいわよ彼氏なんて。一人で仕事して生活できてるんだし充分よ。

エリ でもそれだけ仕事が忙しいと彼氏とか言ってられないか。

ミキ 忙しくなくてもいらないわよ、てかエリも人の事言えるの?

エリ う、それは…。

ミキ 前に言ってたコウって人とはどうなのよ。

エリ たまにお見舞いに来てくれるよ、けどそれだけで何もないから!

ミキ 何よ進展してないの?頑張りなさいよ。  

エリ だからそんなんじゃ…。

《ノック音、二人、ドアを見る》

コウ エリさん、いらっしゃいます?

エリ は、はい!いますよ!

ミキ 噂をすれば…。

コウ お邪魔します。あ、席はずした方がいいですか?

ミキ いえいえ、むしろ私の方がお邪魔かな?

エリ そんなことないから!もう…。

コウ この方が前にエリさんが言ってた…?まさかアナウンサーの佐藤美紀さんだったとは。

エリ はい、そうです。お友達のミキちゃん。で、この人がコウさん。

ミキ はじめまして。ちょっとエリ、私の何を話したのよ。 

エリ 別に変なこと言ってないよ?仕事が忙しい中いつも見舞いに来てくれるって話。

コウ エリさんが楽しそうに話してたので仲がいいんだろうなぁと。

ミキ 私たち幼なじみなんです、エリもよくコウさんのこと楽しそうに話しますよ。

エリ もう!余計なこと言わなくていいから!

コウ 以前エリさんを取材させていただいて、それからたまにお見舞いに。

エリ そうなの、あれからこうして来てくれるのよ。本当にありがとうございます。 

コウ いえいえ、私が来たくて来てますから。お体の方はどうですか?

エリ 最近は安定してますよ。毎日本を読んでご飯食べて寝てるだけです。

コウ ご飯を食べるのは大事ですよ、それだけで元気になりますから。 

ミキ そうだ、私りんご持って来たのよ、エリ食べる?

エリ 食べたい!

ミキ コウさんもよかったらどうですか?

コウ じゃあ、お言葉に甘えて。

ミキ じゃあここ使うね。

《ミキ、離れた場所でリンゴを切る》

コウ ミキさんもよくお見舞いに?

エリ たまに来てくれるんです、忙しいのに。

コウ そうなんですね、いいお友達じゃないですか。 

エリ ミキちゃん昔からずっとあんな感じで変わらないんですよね。コウさんの方はお元気でした?

コウ ええ、まぁ相変わらずあちこち周って大変ですけど。

エリ 今も何か取材とかしてるんですか?

コウ この間終わったばかりでして、これからまた新しい仕事を。

エリ そうなんですね!次はどんな内容を?

コウ 普段は雑誌の方が多いんですが、今回は報道の方に行くことになって…あまり詳しくは言えないんですけど。

エリ あ、ごめんなさい聞いちゃって。

コウ いえいえ、まだ決まってないのでそもそも話せるようなことがないんです。

エリ コウさんのお仕事ってあまりお休みなさそう。

コウ そんなことないですよ?取材の合間にのんびりしてますから。今日もこうしてここに来てますし。

ミキ できたわよ、はいりんご。

エリ ありがとう!意外とこういうのささっとやれるんだよねミキちゃん。

ミキ 意外とって何よ、むしろ一人だからささっとできるのよ。はい、コウさんも。

コウ ありがとうございます。

エリ んーー!美味しい!

ミキ 大袈裟ねぇ。

エリ だって久しぶりなんだもん。

ミキ 食べたいのあったら言いなさいよ?買ってくるんだから。

エリ じゃあプリン!

ミキ ですってコウさん。

コウ ふふっ、わかりました覚えておきます。

エリ ミキちゃんが買ってくるんじゃないの!?

ミキ 私は果物担当だから。

エリ 何よそれ…あ、もう検査の時間だ。

ミキ あ、そっか。じゃあそろそろ行くね、また来るわ。

コウ そうですね、そしたら僕も。

エリ うん、いつもごめんねわざわざ。コウさんもありがとうございます。

ミキ 何いってんのよ。じゃあね。 

コウ また来ますね、お大事に。

《ミキとコウ退室、外へ出る》

コウ エリさんお元気そうでよかったですね。

ミキ ええ、前より体もよくなってるみたいですし。

コウ この病院は凄いですからね、医療技術の高さや最新介護ロボットの導入、人の手が届かないところも助けてくれる。エリさんもここに来てからよくなってるそうですし、今の技術のおかげですね。 

ミキ …………。

コウ ……ミキさん?

ミキ え?…ええ、そうですね。

コウ 大丈夫ですか?エリさんから忙しくて大変と聞きましたけど…。

ミキ いえいえ大丈夫です!ごめんなさい!

コウ そうですか…では僕はこの辺で。

ミキ はい、またエリに会いに来てあげてください。


《数日後、喫茶店》

ミキ (溜め息)……なんでこの仕事を私がやらなきゃ……。

コウ あ…ミキさん!

ミキ コウさん!どうしてここに?

コウ 仕事の件で人と待ち合わせなんです。

ミキ 私もなんですよ。あれ……もしかして……。 

コウ はい、お話をいただいた時に実はミキさんと一緒ということを先に聞いてたんです。

ミキ そうだったんですね!凄い偶然!

コウ 改めて、よろしくお願いします。

ミキ はい、よろしくお願いします。

コウ 知ってる人だと少し気が楽ですね。

ミキ そうですね。私記者の方と一緒に作っていくのは今回初めてで…。 

コウ 僕も報道特集は初めてなんですよ。あ、すいません注文いいですか?アイスティー1つお願いします。

ミキ 私はアイスコーヒーで。

コウ じゃあさっそく説明しますね。

ミキ お願いします。

コウ 今回はロボット社会について明るい未来を感じられるような報道特集を組みたいという局からの依頼があったので、病院や工場などで取材をしていきたいと思います。

ミキ 明るい未来の事ですか…。

コウ 必ずしも明るい話題ばかりではないですがメディアはそういうところをなるべく多く取り上げたいようですね…。あ、ありがとうございます。んー美味しい、ここのアイスティー好きなんですよね。

ミキ そういえばこの店で待ち合わせってコウさんの指定でしたね。よく来るんですか?

コウ ええ、行きつけですね。息抜きなんかでよく来るんです。

ミキ 美味しい…。

コウ 店の人が作ってるんですよ。

ミキ あっ…そういえばここにはロボットがいない…今時珍しいですよね。

コウ そうですね、でもそれがこの店のこだわりなんでしょう。まぁ私はコーヒーが苦手なのでアイスティーしか飲んだことありませんが。

ミキ ふふっ、行きつけでいつものってやつですね。

コウ ただこれしか飲めないだけですよ。ではまず今回向かう工場なんですが…。

《喫茶店で打ち合わせ後工場、工事現場、病院で取材を行う。取材終了時刻、夕方》

ミキ 疲れたー…いつもこんなに取材してるんですか…?

コウ いやぁ、さすがに今回は私も疲れました…。

ミキ でもエリのいる病院に取材とは、ちゃっかりしてますね。

コウ 一度取材させてもらってるので、やりやすいんですよ。こういう繋がりは上手く使わないと。さて、あとはこれを届けましょうか。

ミキ エリびっくりするんじゃないかな。

コウ 確かに、今日は来ると伝えてないですからね。

《ミキ、病室の扉をノック》

ミキ エリ?いるー?ミキだけど。

エリ ミキちゃん?どうぞー!

ミキ ごめんね突然。

コウ お邪魔します。

エリ コウさんも!どうしたの急に?

ミキ 食べたいって言ってたの持ってきたわよ。先生がプリンなら大丈夫だって。

エリ 本当に持ってきてくれたの?ありがとう!

コウ お口に合うといいんですが。 

エリ 食べるの久しぶりだなぁ、うわぁ美味しそう!

ミキ でしょー?食べな食べな。

エリ いただきまーす……んー!美味しい!

コウ ならよかったです。

エリ わざわざ届けに来たの?

ミキ 実は私達ここの病院に取材に来たのよ、エリもいるしついでにプリンもって事になって。

コウ この前話した仕事の件、たまたまミキさんと一緒になったんですよ。

エリ えー⁉凄い偶然だね!

ミキ 本当に驚いたわよ、知ってる人でよかったわ。あ、私お手洗い行ってくるね。

《ミキ、退出》

エリ 気を遣ってくれたのかな……。

コウ どうかしました?

エリ いえ何でもないです…!そういえば取材って言ってましたけど…。 

コウ 午前中からいろいろと取材して最後がこの病院だったんです。

エリ そうだったんですね。

コウ 先程担当の先生から聞きましたけど、エリさんお体の方だいぶ良くなってるみたいですね。

エリ はい、おかげさまで。今はロボットのサポートと一緒に少しずつ歩いたり外に出てみたりしてるんです。疲れちゃいますけど。

コウ 筋肉の症状は治療が難しいですから焦らず少しずつですよ。でも本当にこの病院の医療レベルの高さには驚きますね、エリさんと初めてお会いした時と比べて、かなり回復しているようですし。

エリ 前は身も心も弱ってましたから…。

コウ あの時取材を受けてくださって本当にありがとうございました。この病気や治療のことなど多くの方に記事を読んでいただけて。

エリ そうでしたか、少しでも知ってくれる方が増えたならよかったです。弱ってた私が頑張ろうって前向きになれたきっかけってあの取材なんですよ?コウさんのおかげです!ミキちゃんも元気くれるし!

コウ いえいえそんな自分は何も…!あ、そうだ…実はエリさんにお聞きしたい事がありまして……。

エリ 聞きたいこと? 

コウ ミキさんなんですが、今日一日浮かない顔というか思い詰めてるようなんです。

エリ さっきのミキちゃん普段と変わらなかったと思いますけど…。

コウ エリさんと会ってから表情が変わったみたいですけど…取材中はずっと…。仕事やりにくかったのかな…。

エリ ちなみにどんな内容だったんですか?

コウ ロボット社会の未来についてです。

エリ ロボット…?

コウ 気のせいかもしれないですけど…少し心配なので様子を見てみますね。

エリ ……そうですね……。

《ミキ、入室》

ミキ あれ?エリ、どうしたの?

エリ あ…ううん何でもないよ!

ミキ もしかして急に来たから疲れちゃった?

エリ ううんそんな事ないよ、プリン美味しかった!

コウ でもそろそろお暇した方がいいかもですね。

ミキ そうね、もう夜になるし。また来るわね。

エリ ありがとう、また買ってきてほしい!

ミキ そんなに美味しかったならまた買ってくるわ、じゃあね。

《ミキ、少しだけ笑み、ミキとコウ退出》


エリ ミキちゃん……やっぱり……。

《数日後、警視庁前》

ミキ 今回の取材は警視庁が最後でしたよね?

コウ はい。最近では見回りだけでなく事件現場へのロボットの導入も増えているそうで。

ミキ なるほど…これからもっと導入されるとも言われてますからね…。

コウ なので、その辺りの話を伺いに……ミキさん、どうされました? 

ミキ え?あ、いえなんでも。さぁ、行きましょ。

コウ はい…。

《会議室、二人入室、男性が立っている》

コウ 今回は取材のご協力ありがとうございます。

シゲ 山本重明です、今回はよろしくお願いします。コウさんはお久しぶりですね。

ミキ はじめまして、佐藤美紀です。よろしくお願いします。

シゲ いつもテレビで拝見してますよ。お会いできて嬉しいです。

ミキ ありがとうございます、お二人はお知り合いなんですか?

コウ 以前別の取材で一度だけ、今回も快く受けてくださって。

シゲ メディアの取材は自分が担当になることが多いんです。

ミキ そういえば山本さんをうちの局でお見かけしたような…。

シゲ ええ、前に番組に出させていただいた事が。メディアへ出ることが増えてからシゲさんって呼ぶ人が多くてなので気軽にシゲと呼んでいただけると。

ミキ そうなんですね、よろしくお願いしますシゲさん。

コウ 今回の取材なのですが、現代における警察とロボットについてのお話をお聞きしたいと思います。年々警視庁でもロボットの導入が増えているそうですね?

シゲ ええ、交通部への導入から始まり、今では刑事部など様々な場所で活動してもらっています。イベントなどでの交通規制や、捜査に鑑識などですね。

コウ 本当に幅広いですね。年々増えているということは警視庁内でもロボットの導入は助かっている部分があるということなんでしょうか?

シゲ はい。より正しくかつ慎重に、人間には難しいことを助けてもらっています。データ化し共有することで正確に進み素早く対処できるようになりました。二次被害などを防ぐ事にも繋がり、ロボットの貢献はとても大きなものだと思います。

コウ ロボットの導入はこれからも増えていくのでしょうか?

シゲ 可能性はありますが、あくまでサポートであり仕事は我々人がやらなければいけないと考えています。

コウ 人がやらなければいけない…。

シゲ 事件というのは人が起こすもの。もちろんデータは正確ですが、やはり人間のことは人間の方がよく知っていますから。

コウ なるほど…。シゲさんが仰ると重みがありますね。 

シゲ いえいえ、ロボットが本格的に導入される前からいた身としては慣れない事も多いんですよ…我々のような機械音痴にはさっぱりで、最近の若い者たちに教わる事も多いんです。我々も若い者たちに教える事が多いので、そういった意味でも共存していけたらいいなと。

コウ これから若い方たちが配属されていくと同時にロボットのサポートも進化していくと思われますが、やはりベテランの方の教えも大切という事ですね。

シゲ そんな偉そうな事は言えないんですがね。

ミキ ........................。

シゲ ミキさん、どうされました?

ミキ え?あ…すみません…!

シゲ 思うところがありましたか?どうやら何か考えていたようですが。

ミキ ……すみません取材中に…。

シゲ お節介とは思いましたが今日お会いしてからずっと何か考えてらっしゃるようだったので。

ミキ ……!顔に出ていましたか…大変失礼を…!

シゲ いえいえ、こちらこそ。職業病ってやつですよ。

ミキ さすがですね……。取材と離れてしまうのですが…一つお聞きしてもよろしいですか…?

シゲ 私が答えられる内容でしたら。

ミキ ……共存していく社会においてロボットが関わる事件も発生するかと思います…そういった事件についてシゲさんのお考えをお聞きしたくて…。

シゲ ……ロボットが関わる事件があるのは確かです。現状ロボットに我々のような人権は存在していません、被害にあっても器物損壊に留まるでしょう。

ミキ …………。

シゲ ですが共存社会が進むということは、ロボットが家族として大切な存在になる人が増えるということです。家族を失う方が増えないよう未然に防ぐために我々は全力を尽す思いです。

ミキ …………お答えにくい質問をしてしまい申し訳ありませんでした…。

シゲ いえ、とても大切なお話だと思いますよ。特にあなたにとっては。

ミキ え…?

シゲ おっと…次が控えてますので今日はこの辺りで。

コウ お時間いただきありがとうございました。

シゲ いえいえ、取材もいいですがもっとプライベートなお誘いも待ってますよ?(手を口元にクイッとお酒を飲むジェスチャー)

コウ シゲさんお酒強そうですね、私はそこまで強くないですがそれでもよければ。ミキさん、行きますよ。

ミキ あ、はい!本日はありがとうございました!

シゲ こちらこそ。また機会があれば、よろしくお願いします。

《ミキとコウ、退出》

シゲ そうか...やはり彼女は……。

《警視庁を後にし歩き出す二人》

コウ お疲れ様でした、取材はこれでおしまいです。

ミキ ……今日はすみませんでした…。

コウ 以前も何か思い詰めてるような気がしていましたが…。

ミキ 仕事とはわかってるんですけど…すみません…。

コウ ロボットはお好きじゃありませんか?

ミキ ……大好きでした、私にとっては家族でしたから。

コウ .......先程話されていた事と関係が…?話しにくかったらいいんですが…。

ミキ ……家族がいたんです、サヤ姉って呼んでました。4歳の時に家に来て、私にとって姉同然で。

コウ ………。


ミキ ある日学校から帰ったらリビングで倒れてるサヤ姉を見つけて…。空き巣だったんです、家を守ろうとしたサヤ姉はもう動かなくなってて…。犯人の罪は窃盗と器物損壊でした、私たちにとっては家族を失ったのにロボットだから……シゲさんが仰った通りです…。人のように身近な存在として共存しながら、人ではないロボットはあくまでモノでしかなくて、大事な家族がそんな扱いをされたこの社会にあの時の私は絶望して…。

コウ そうでしたか……。

ミキ この社会で助かってる人たちがたくさんいるのはわかってるんです…けど、サヤ姉はモノじゃないと叫んでもなにも変わらなかった社会に、どうしてって子供みたいに思ってしまって…私はあの時からずっと、答えが出せずにいるんです…。

コウ …………。

ミキ ……すみません、こんな話…。

コウ いえ、こちらこそ辛い事を話させてしまって…。

ミキ あっ…私一度局に戻らなきゃいけなくて、すみません今日はここで。

コウ わかりました、お疲れ様です。また。

《分かれ道、ミキ、立ち去る。コウ、その背中を見つめる》


《数時間後、ミキ、帰宅中。時刻0時》

ミキ さすがに疲れたなぁ…帰ったら爆睡かも…。ん?なんだろうあの人たち…。

《目深に帽子を被った男女二人。小声で車に何かを運び込もうとしている》

タカ 慎重に運べよ?もしこれが…。

カナ 怖い事言わないで…!落としたらどうするのよ…!?

タカ 落としてほしくないから言ってんだろ!いいか、絶対に落とすなよ?絶対だぞ。

カナ 言われなくてもわかってるわよ、てか量多くない?

タカ 派手にやるんだからこのくらい必要だろ。

カナ 作りすぎただけでしょどうせ。

タカ 違うわ!これはちゃんとした計画で

カナ ハイハイわかったわかった……ふぅ、これで最後ね。

タカ 準備完了だな。

カナ この時間人がいなくてよかったわ。

タカ まぁ、まさか俺らが爆弾運んでるだなんて誰も思わな——

《タカとカナが横を見てミキを見つける》

ミキ ば、ば、ば、爆弾!?

タカ バカ!!でけぇ声出すな!!

ミキ 今すぐ警察に…ってちょっと何するのよ離して!!

タカ 静かにしろ!!お前も来い!!

《タカ、無理やりミキを車の後部座席に連れ込む》

カナ ちょっとあんた!そんなことしたら!

タカ ここでバレたら元も子もねぇだろ!いいから車出せ!

カナ あぁもう!どうなっても知らないからね!

《ミキを乗せた車が走り出す》

ミキ あなた達何してるかわかってるの!?誘拐よこれ!?それにさっき爆弾って!

タカ ああそうだよ、今この車には大量の爆弾が積まれてる。事故ったら一発だぜ。

ミキ 一発って…いいから降ろしなさいよ!

タカ 降ろしたら警察に通報するだろ!

ミキ 当たり前でしょ!てか携帯返して!

タカ 返したら警察に通報するだろ!

ミキ 当たり前でしょ!降ろしなさいよ!

カナ 静かにして!運転に集中できないでしょ!死にたいの!?

ミキ 死にたくないから降ろしてって言ってるんでしょ!

タカ 降ろしたら警察に通報するだろ!

ミキ 当たり前でしょ!って何度同じ事言わせるのよ!

カナ いいから静かにして!!!事故らせるわよ!!!

二人 すみません…。

カナ 結局どうするのよこれから。

タカ やるしかないだろ予定通りに。

ミキ 何をするつもりなのよあなたたちは!

タカ これを仕掛けて爆破させるんだよ。 

カナ ちょっと言っていいの?

タカ いいだろ、どうせ爆弾積んでるのバレてるんだから。

ミキ 爆破って、どれだけの被害になるかわかってるの!?死人が出たら

タカ 爆破させるのはロボットしかいない工場だよ、人がいるところじゃない。

ミキ え?ロボットしかいない工場?

タカ 俺たちの目的は人じゃなくロボットだ、社会への無駄な抵抗って笑われるかもしれないがな。

ミキ 社会への…抵抗…。

タカ なんだよ、お前は俺らを笑う側じゃねぇのかよ。

ミキ ……私もこの社会に絶望したから…。

タカ お前もこの社会を嫌ってるのか?一緒だな。

ミキ 一緒にしないで。確かに私は絶望したけど、それでもこんなことしようなんて思わなかった。ましてや実行しようだなんて。

タカ お前に何があったか知らねぇが絶望したのは俺らもだ。もうこうするしかないんだよ。

ミキ どういうことよ…だからってこんな事…。

タカ ………。

カナ 生きる場所が無くなったのよ。私達には代々継いできた工場があったの、ロボットがいない人の手だけの、所謂職人ってやつ。でもロボット社会が進んでから衰退していって、そしたらある会社が私達の工場を買収して土地も奪って、片親だった父もすぐに自殺して残ったのはもう使われない手とお金だけ。

ミキ そんな……。

カナ こんな社会にならなければ私達は…身勝手なのもわかってる…。それでもこの社会を恨まずにはいられないのよ。ロボットさえいなければって思わずにはいられないのよ。

ミキ でもこんなことしたらあなた達…。

カナ 覚悟なんかとっくに決めてるわ、父が死んで恨みだした時から。

ミキ …………。

カナ 意外ね、さっきまでのあなたを見てたら間違ってるって言ってくるかと思ったのに。

ミキ 間違ってると思う...こんなことしても何かが変わるわけじゃない...。

カナ ……そうね…。

ミキ それでも、もし私があなた達の立場だったらどうだったんだろうって…。一緒じゃないって言ったけど、本当にそうなのかなって…。そう思ったら、ハッキリと間違ってるって言えなくて…間違ってるはずなのに…。絶望した時の私には力がなかったから…否定したいのに…私が弱いから…。

カナ ……いいえ、あなたはきっと強いわ。弱いのは私達の方よ。

ミキ …………ちょっと待って、今高速乗った?

タカ ああ、遠いからな。

ミキ 遠いって、本当どこに行くつもりなのよ!

タカ 福岡だ。

ミキ 福岡!?ここ東京よ!?車で福岡までとか正気!?

タカ 正気なわけねぇだろ!車に爆弾積んで福岡まで行くとか正気ならしねぇよ!

ミキ なんで開き直ってるのよ!福岡の工場までって…なんで近場じゃないのよ…。いや、近場ならいいって話じゃないけど。

タカ 福岡の島田工場ってところだ、地図持ってくるの忘れたけどバレずに高速で行けば半日で着くだろ。

カナ バカ言わないでよ、休憩しながらいくわよ。

タカ 爆弾積んで休憩なんかできるかよ!

カナ じゃあ疲れながら運転して事故る?

タカ ……休憩はしよう。

カナ わかればよろしい。てかあんたサラッと地図忘れたって言ったわよね?大丈夫なの?

タカ 大丈夫だろ、ナビがあるし。

ミキ ってか、こそこそしてるくせに高速は使うのね。

タカ どういうことだよ。

ミキ だってこの先交通規制や検問がないとは限らないでしょ、引き返せなくなるわよ。

タカ …………。

カナ …………。

ミキ そんな事も考えずに運転してたの!?

タカ うるせぇ!すぐに高速降りるぞ!

カナ 盲点だったわ。

ミキ 何が盲点よ!計画甘すぎでしょ!

タカ なんで拐われてるお前に言われなきゃいけねぇんだよ!

ミキ 言わなきゃよかった…。

カナ 下道で行くなら何日かかるのかしら…。

ミキ 何日も私を誘拐する気!?明日も仕事なんですけど!

タカ 何日か休んでも問題ねぇよ、変わりのロボットくらいいねぇのか。

カナ ちょっと待って、あなたどこかで見たことある気が…。

タカ え?…確かに見たことある気がする。

カナ あ!!もしかしてあなた、佐藤美紀!?

ミキ そうよ、明日も生放送あるんだから降ろしてよ!何日もかけて福岡に行ってる場合じゃないのよ!

タカ 有名人誘拐しちゃったのかよ俺ら…。って事は、行方不明なのすぐにバレる?

ミキ 生放送に来ないなんてあり得ないわよ、すぐに捜索願を出されるでしょうね。

タカ やべぇじゃん!あんた明日仕事休むって連絡しろ!

ミキ いいわよ、じゃあ携帯返して。

カナ バカ!通報されるわよ!?

タカ てめぇ騙したな!

ミキ 普通こんなのに引っかからないわよ。ふわぁ〜…もう眠いんだけど。

カナ よくこの状況で眠くなるわね。

ミキ 仕方ないでしょ仕事帰りだったんだから。あなた達に巻き込まれなかったら今頃寝てるわよ。

タカ なんでよりによって有名人誘拐しちゃったんだろ…。

ミキ もういい、私寝るから。運転本当に気をつけなさないよ?疲れたら交代とかして休むこと。いいわね?

タカ だからなんであんたに言われるんだよ!

ミキ 寝てるときに死にたくないからよ!!はぁ〜...もう最悪…。

《ミキ、後部座席で寝る》

タカ 本当に寝やがったよ。

カナ 彼女の言う通り交代で運転するわよ。明日すぐに捜索願を出されたら見つかるのも時間の問題ね、急がなきゃ。

《翌日正午、コウ、エリの病室に訪れる》

コウ ここにも来ていませんか…。エリさんなら何かご存知かと思ったのですが…。

エリ ごめんなさい…コウさんと一緒に来てくれた時が最後で、ミキちゃんがどこにいるかは…。

コウ そうですよね…すみません突然お邪魔して。

エリ やっぱりミキちゃんから連絡はないですか…?

コウ まだ来ていませんね…電源が入ってないようですし…。

《ノックの音、シゲ入室》

シゲ 失礼します。

コウ シゲさん?どうしてここに?

シゲ ミキさんの連絡が取れないと、今捜索願が出されました。前日会っている私も捜索することになったんです。

コウ そうだったんですね、ありがとうございます。

シゲ エリさんですね、すみません突然お邪魔して。ミキさんのご友人だそうで、少しお話を聞けたらと。

エリ コウさんにもお伝えしましたけど、ミキちゃんがどこにいるのか私も知らなくて…。

シゲ 思い当たる事はないですか?些細なことでもいいんです。

エリ 最近ロボット社会についての取材をしている事しか…。

シゲ そうですか…すみません、お体悪い中突然お邪魔して。ご協力感謝します。

エリ ミキちゃんは、何か事件に巻き込まれたんでしょうか…突然仕事を投げ出す人じゃないし、連絡もないなんて…。

シゲ まだそうと決まったわけではないですが、可能性はあります。心配でしょうが、一刻も早くミキさんを探し出しますので、お体を大事に待っていてください。

エリ はい…ミキちゃんをお願いします…。

シゲ コウさんも、お話いいですか?

コウ はい。それじゃあエリさん、また。

《シゲとコウ退場、駐車場に移動》

シゲ ミキさんと最後に会ったのはいつですか?

コウ 取材が終わった後ミキさんが局に戻ると言って、すぐに別れました。僕はそれきりです。

シゲ なるほど…。そのあと局を出たのが23時以降とお話は伺っているのでいなくなったのはその時間以降…。あの後ミキさんのご様子は?

コウ どうしてシゲさんにあの質問をしたのか、話を聞きました…。

シゲ 窃盗および器物損壊事件…でしょうか。

コウ どうしてそれを?

シゲ 実はあの事件、私が新人だった頃現場にいたんです。やはりあの時の子がミキさんでしたか、面影があるとは思っていましたが。

コウ その話を聞いた後すぐに別れたので、僕も彼女について思い当たる事が何もなくて…。

《シゲ、着信が鳴る》

シゲ おっと、すみません。はい、山本です、……そうですか、また何かわかったら連絡してください。

コウ 何かあったんですか?

シゲ ミキさんの家の近所で大声で話す人と車の音が聞こえたと聞き込みで判明しました。関係しているかはわかりませんが、手がかりにはなるかもしれません。「離して!」という声も聞こえたそうです。

コウ 誘拐…。

シゲ その線が濃厚でしょう、音が聞こえただけで目撃者がいたわけではないですが…。

コウ 有名人を狙った誘拐...犯人から身代金を要求される可能性も…。

シゲ 十分あるでしょう…私も聞き込みに向かいますね、ご協力感謝します。

《シゲ、車で去る》

コウ ミキさん…どうか無事でいてください…。

《同時刻、車内》

ミキ んー……ふわぁ〜…うわ…よだれ…痛っ…あれ…?

タカ やっと起きたかよ、何時だと思ってんだ。

ミキ …………夢じゃなかったのね…。

タカ 残念ながらな、てかよく車で爆睡できるな。

ミキ だから疲れてたんだってば…今何時?

タカ 12時過ぎ。

ミキ ……生放送…最悪…。

タカ そこにコンビニの飯置いてあるから、食っとけ。

ミキ え?なんで?

タカ なんだよ、いらねぇのか?

ミキ お腹は空いてるけど、なんでわざわざ…。

タカ お腹空いたって騒がれたくねぇからな。

ミキ そんな気遣いするなら降ろしなさいよ。

タカ うるせぇ、早く食えそれ。

ミキ そういえば、私まだあなた達の名前聞いてないんだけど。

タカ 確かに…俺はタカ、今助手席で寝てるのが姉のカナ。

ミキ …今誘拐犯なのわかってる?よく名前教えたわね。

タカ 別にいいさ知られても、どうせ…。

ミキ 何よ。

タカ なんでもねぇよ。

ミキ ……今どのあたりなの?

タカ そろそろ大阪だ。

ミキ 大阪…こんな形で来るなんて…旅行とかで来たかった…。

タカ 大阪初めてなのか?

ミキ 毎日テレビ局で仕事してるとなかなか行く機会ないわよ…。バラエティ班ならいろんなところ行くでしょうけど、報道班はずっとスタジオよ…羨ましいわ。

タカ 大変なんだなテレビって。

ミキ 誘拐したあんたが言う?仕事すっぽかしたことの方がもっと大変よ。…いいなぁ…たこ焼き…お好み焼き…食べたい…。

タカ 俺だって食いてぇよ、せっかく大阪来たのに...。

ミキ 食べましょうよ大阪来たんだから。

タカ そうやって抜け出すつもりだろ、騙されないぞ。

ミキ その手があったか。

タカ え?本当に食べたいだけだったの?

ミキ そう、食べたいだけ。だから降ろして。

タカ 今その手があったかって言っただろ!降ろすか!

ミキ 食べたかったのに…。

カナ いいんじゃない?食べましょうよ。

タカ なんだ起きてたのか、いいのかそんなことして。

カナ どうせどこかで食べなきゃなんだし。ほら、そこの店でテイクアウトしてきて。食べてから交代よ。

タカ 俺が買いに行くのかよ…しょうがねぇな。

《タカ、車を止めて買い出しに出る》

カナ 寝れた?

ミキ 体バキバキよ、まぁ寝たけど。

カナ 私もバキバキ、運転疲れてなんだかんだ寝ちゃったわ。

ミキ ……あなた達、姉弟なのよね?

カナ ええそうよ。

ミキ 仲が良いのね。

カナ 二人でずっと一緒に生きてきたからね。ああ見えても昔は結構可愛かったのよアイツ、バカなのは変わらないけど。

ミキ ……あなた達の話、もっと聞かせて?

カナ 何よ急に……面白い話なんてないわよ。

ミキ いいのよ、あなた達のことを知りたいの。

カナ 変わってるわね、あなた。

ミキ あなた達も相当変わってるわよ?

カナ ……否定できないかもね。それで?何が聞きたいの?

ミキ そうね、まずは子供の頃の思い出から。

《二人車内で話を弾ませる。

カナの思い出話に時折笑うミキ。

買い出しから戻るタカ》

タカ 戻ったぞ…って、なんでそんなに盛り上がってんだ?

カナ お帰り、買えた?

タカ おう、適当に買ってきた。よくわかんねぇけど。

ミキ わからないの買ってきたの?大丈夫なのかしら…。

タカ 食べれたらいいだろ。ほら、あんたの分。

ミキ いくら?

タカ あ?いいよ別に。

ミキ 何よ、誘拐代ってわけ?そんな気遣いするなら降ろしなさいよ。

タカ うるせぇな!じゃあ千円よこせ!

カナ いいわよタカの奢りで。

ミキ カナが言うなら、じゃあいただきます。

タカ 結局奢りかよ、てかいつの間に名前で…。

ミキ ゴチになりまーす、たー坊。

タカ なんでその呼び名を!?余計なこと言うなよ!

カナ 私は好きだったけどね、たー坊

ミキ 私も好きよ、たー坊。

タカ その呼び名で呼ぶな!…ったく、なんで仲良くなってるんだよ…誘拐と爆弾の事忘れてるだろ…。

カナ これ食べたらすぐ出発するわよ、あんたは寝てなさい。

タカ 一気に疲れたわ…俺後部座席で寝たいから席変わって。

ミキ 本気で言ってる…?まぁずっと後ろよりはいいけど。

タカ 運転疲れたら起こして、それまで寝てるから…。

ミキ …………本当だ、寝るの早い。

カナ 昔から変わらないのよね。さて、食べたし行くわよ。

ミキ ……なんか、やっぱり変わってるよ二人とも。

カナ またその話?

ミキ だって、今から爆弾仕掛けに行くなんて思えないんだもの。本当は誘拐されて荷物も危ないのに、どうしてだろうね。二人は悪い人達なのに、悪い人に思えない。

カナ ……錯覚よそれは。

ミキ ねぇ…爆弾仕掛けるの、やめない?

カナ ダメよ、もう引き返せない。

ミキ そんなことない、今なら間に合うわよ!だってまだ何もしてないんだから、通報だってしないわ。

カナ 何言ってるのよ、あなた誘拐されてるじゃない。

ミキ それは

カナ もしかして、同情してる?

ミキ 違う…そんなんじゃ…。

カナ ...ごめん、意地悪言ったね…。

ミキ …………。

カナ 私たちには生きる場所がない、戻る場所すらないの。

ミキ ………あなた達に過ちを犯してほしくない。私、止めるためについていくわ。

カナ 私たちのやる事は変わらないわよ。

ミキ そうだとしても。

カナ …………。

《時刻は夜、東京駅》

コウ それで、何かわかったんですか?

シゲ 手掛かりだった大声と車の持ち主が判明しました、音を聞いた住民の隣の家に住んでる姉弟の二人です。あの後家を訪ねたんですが出てこなくて。玄関を調べると鍵が空いてたので、中に入ったんです。中にはプリントされた地図がありました。この場所です。

コウ ……工場ですか?もしかしてここに?

シゲ 我々はそう考えています。車で移動しているなら新幹線で先回りしようかと。

コウ 私も同行させてください!ミキさんを助けたいんです!

シゲ これはこちらの仕事なので、と言いたいですが…。本来なら同行は許されませんが今回は特別ですよ。

コウ ありがとうございます…!

シゲ まぁ、そのつもりでお呼びしたんですけどね。では早速新幹線で向かいましょう。

《進むと奥は人で溢れかえっている。

駅構内のモニターには地震の影響による運休の案内が書かれていた》

コウ ……おや?かなり混雑していますね…。

シゲ 山口県で地震があったそうですね…新幹線は一時運休…。

コウ これでは先回りできないか…。

シゲ 私の車で行きませんか?間に合うかもしれません。

コウ 車で?……なるほど、高速で。

シゲ ええ、犯人はリスクを考えて高速は使ってないはず。もしかしたら間に合うかもしれません。


コウ では、すぐに向かいましょう!

《同時刻、休憩中の車内。大きな地震が発生》

ミキ 揺れ…凄く大きかった…。

カナ 信号が止まってる…大規模な停電かしら…。

タカ 参ったなこりゃ…。

カナ ………震源地は山口県らしいわ…。今広島だから、かなり近かいわね。

ミキ どうするの…?

タカ 今更戻れないだろ。

ミキ また地震が来るかもしれないのよ…?

タカ ……人が避難して工場付近は誰もいないかもしれない。

カナ じゃあこのまま行くのね?

タカ ああ。

ミキ そんな……。

カナ じゃあ次はあんたが運転して、交代よ。

タカ おう。

ミキ ねぇ!もうやめましょうよ!

タカ 引き返せねぇんだよ俺たちは!

ミキ ………。

タカ あんたを巻き込んだのはすまなかった...咄嗟に拐っちまったけど…また地震が来るかもしれないのにこれ以上…。こんなところで悪いが通報しても構わないからあんたは

ミキ 何よいきなり罪悪感なんて出して!!ここまで私を連れてきて、それこそ今更じゃない!!

タカ ………。

ミキ 私は降りないわよ!あなた達を止めるって決めたの!私はまだ諦めてない!止めることを諦めてない!あなた達の勝手を私の勝手で止めるんだから!

《少しの沈黙》

タカ ……勝手にしろ…。

カナ タカ…。

タカ 行くぞ。関門海峡を渡れるかどうかわからないがな…。

ミキ ………。

カナ 信号も灯りもないし、気をつけなさいよ。

タカ 信号ついてない状態で運転なんてした事ないからゆっくりになるな。

カナ 飛ばして目立ちたくもないし、安全運転でいいわよ。爆弾積んでて安全運転って意味わからないけど。

タカ 俺ら今世界一安全運転してると思うぜ。

カナ バカ言ってないで集中して。

タカ わかってるよ。

ミキ ……………。

カナ ……………。

タカ ……………ラジオつけるか…。

アナ 続いて、三崎工場で火災が発生しているとの情報が入りました。消防隊が消化活動中ですが、現在も火が広がっているとのことです。近隣の方々は避難し、近づかないよう注意してください。続きまして…

《タカ、ラジオを消す》

ミキ ちょっと、なんで消すのよ。

タカ ずっと地震の話だろ。

ミキ そりゃそうでしょう、音楽でも聴きたかったわけ?

タカ 音楽でもかけりゃ辛気臭い空気も少しはマシになると思ったんだよ!

カナ あんたがその空気にしておいて…。

タカ わかってるよ!だからだろうが!

ミキ ...ふふふっ。

タカ なんで笑うんだよ。

ミキ 本当…変わってるっていうかバカっていうか。

カナ さすがに私もこれには呆れるわ…。

タカ 言いすぎだろ!!

ミキ 音楽聴きたいなら流せばいいじゃない。スマホに曲入れてないの?

タカ 入れてない、姉ちゃんは?

カナ 私は入れてるけど、もうバッテリー少ないのよね。

ミキ 私のスマホ曲入れてるけど流す?

タカ ………。

ミキ 今更通報しないわよ。

タカ 疑ってねぇよそこは。ほらっ。

ミキ じゃあなんで黙ったのよ。

タカ なんでもねぇよ。曲は何でもいい、任せる。

ミキ わかった……あっ…。

カナ どうしたの?

ミキ ううん、電源入れたら通知がいっぱいで…。

カナ そうよね…。

ミキ ………。

ミキM 誘拐されたはずなのに、今は私の意思でここにいる。

二人の勝手を私の勝手で止めるためとはいえ、心配してくれている人達からのたくさんの通知を見ることができず、タカと同じく急に現れた罪悪感で胸が苦しくなった。

私自身がこの社会への答えが見つからないままなのに、二人を止めることなどできるのだろうか...二人にとってこれが、この社会への答えなのだろうか…私の答えは……。

ポジティブな言葉が車内に響く重い空気の中、きっと二人も何かを考えている。誰も聴いていない曲だけがこの場を支えていた。

《沈黙の中車を走らせると、目の前には沢山の車と人がいた》

タカ ………ん?なんだ、この辺り車や人集りが凄いな。

カナ 何かあったのかしら。

ミキ 消防車が何台も止まってる…火事?

タカ ヤバイ、前に進めなくなった…引き返すぞ。

カナ 待って、後ろにも車が。

タカ マジかよ…。え、これもしかして動けなくなった?

ミキ さらに後ろにも車が…渋滞してるわね。

タカ ここで止まるのはマズイだろ!

カナ でも車動かせないわよ、しばらく待つしか…。

タカ 最悪だ…。

ミキ ここ、さっきラジオで聞いた三崎工場じゃない?でも火は消えてるみたいね。

民A 誰か手伝ってくれ!!中に人が閉じ込められてるんだ!!

民B なんだって!?

民A 消防隊の人たちが中に残ってた奴らを救助しにいったら、瓦礫で入り口が塞がったんだ!

ミキ 私行ってくる!

タカ おい!外に出るなって!目立つだろ!

ミキ 人が閉じ込められてるのよ!助けなきゃ!(車から出る)

タカ あ、おい!……ここで目立つわけにはいかないってのに。

カナ …………私も行ってくるわ。

タカ はぁ!?姉ちゃんまでなんで!

カナ どうせしばらく動けないでしょ。(車から出る)

タカ あっ、おい!………。

《ミキ、走って撤去作業している人たちに駆け寄り手伝いを申し出る》

民A 助かります!酷い瓦礫の山ですけど、中に数人残ってて!

ミキ 手分けして瓦礫をどかしましょう!重機などここに呼べませんか?

民B 今連絡してみたんですが、こうも渋滞してると辿り着けるかどうか…。

カナ 動ける人だけでもやりましょう、中の状況がわからない以上急がないと。

ミキ カナ…!?ありがとう!

民A お嬢さん方はこの手袋をしてください!他の消防隊の方々も手伝ってくれてるので!

ミキ わかりました、急ぎましょう!

《消防隊や近隣住民と共に瓦礫を退かすミキとカナ》

ミキ 全然、瓦礫が無くならない…!

カナ 人の手だけじゃなかなか進まないわね…!

民A 今瓦礫退かしてるからなー!!必ず助けるからなー!!

民B 大丈夫だからな!!絶対助けるからな!!

ミキ 消防隊の方が言うには、救助ロボットの出動要請は出してるみたいだけどいつたどり着くか…。

カナ 私たちだけでやるしかなさそうね…。

ミキ そうね、あっ!…イタタタ…!

カナ 大丈夫!?

ミキ うん、足場には気をつけなきゃ…。

タカ ここであんたが怪我してどうすんだよ。

ミキ タカ…!

カナ あんた…。

《倒れたミキに手を差し出すタカ、被っていた帽子をミキに被せる》

タカ あんた有名人だって忘れてないか?行方不明なんだから。

ミキ ありがとう…でもどうして?

タカ 助けなきゃなんだろ。

カナ 最初から素直でいたらいいのに。

タカ うるせぇ!ほらやるぞ!

《同時刻、車で高速を走るコウとシゲ》

コウ 何故姉弟はこの工場へ……ここで何かするつもりなんでしょうか…。

シゲ 調べたところ、どうやらこの会社は二人が継いできた工場と土地を買い取ったそうです。父親も自殺されたと…。恨みのある工場で何かを企んでいるのは確かでしょう。

コウ 恨みですか…。

シゲ ロボット社会への恨みも、もしかしたらあるのかもしれません…。

コウ ……この社会への絶望と否定…。

シゲ ロボットを嫌い恨んでいる人たちも多いでしょう。人が必要なくなった仕事もありますから…。リストラなどが原因で自殺する方も年々増加していますし…。

コウ それでもメディアはこの社会を前向きに発信しています、裏側をあまり取り扱わない。人の就職率低下による自殺者の増加問題がずっと続いていくなかで、社会の明るさを保とうとしている。

シゲ 表も裏も両方事実。助けられている表も確かですからね。

コウ ええ、助かった命も多いでしょう。あの子もこの社会のおかげで助かっていますし…。

シゲ エリさんですか。

コウ 彼女と知り合ったのは取材がきっかけで、初めて会った時は少し暗い印象だったんです。でも最近はとても明るくなって、介護ロボットや医療技術の発展がなければエリさんは…。

シゲ それはロボットだけのおかげではないと思いますよ?

コウ え?

シゲ あなたのおかげもあるということです。

コウ いや、僕は何もしてないですよ。ただ時間があるときに顔を見にくるくらいで。

シゲ それが彼女を明るくさせた大きな薬だったのでは?

コウ …………。

シゲ 確かにロボット社会で助かる事は多い。それでも私は大切なのは心だと思うんです。エリさんが治りたいと思い、医者が治したいと思い、コウさんが治ってほしいと思う。これは全て人の心です。

コウ 人の心…。

シゲ もしかしたらミキさんも、ミキさん自身がロボットに心を見出していたからこそ、姉のように慕っていたのかもしれません。ロボットに心があったかどうかではなく…。……少し難しい話をしてしまいましたね。

コウ いえ、シゲさんの仰っている事何となくわかる気がします。心でどう人や社会と向き合うか…。

シゲ はい。エリさんもご自身の病気と戦いながらこの社会で生きている。ミキさんも、悩み苦しみながらこの社会で生きている。どう向き合うか、ですよ。……歳を取るとつい語ってしまいますね。いけないいけない。

コウ 説得力がありますね、シゲさんが仰ると。

シゲ この姉弟も、向き合わなければいけません。何かを企んでいるならなんとしても止めないと。

コウ ええ、昨日の時点で出発してるようですから急がないと。間に合うといいんですが…。

シゲ ちなみに、コウさんはエリさんとはそういうご関係で?

コウ え!?いや、私たちはそういう関係では…!

シゲ ふふっ、どうやらおじさんのお節介だったようですね。

コウ いやいやそんな!少し驚いてしまっただけで。

シゲ お若いですなぁ。

コウ もう、からかわないでください…。シゲさんの奥さんは?

シゲ 妻は10年前に病気で亡くなりました。

コウ そうでしたか…すみません…。

シゲ いえいえ、お気になさらず。私も当時向き合うのが大変でしたよ、それはもう荒れました。

コウ シゲさんが?

シゲ 意外ですか?毎晩飲み歩いて、酔わないと寝れませんでした。そんな私を上司が叱ってくれたんです、立ち上がって向き合えって。偉そうな事言いましたけど、さっきの言葉は上司の受け売りでして。

コウ シゲさんにもそういう時があったんですね

シゲ 家族を失うのはとても辛いです。それでも生きてる我々は向き合っていかなきゃいけない。生きるという事はそういう事なのかな、上司はそう教えたかったのかなぁと。まぁその上司も去年亡くなってしまったので今となってはわからないですがね。

コウ ……もし今の医療技術があったら、そう思う事はありますか?

シゲ もちろん。技術の発展が早ければ、助かったかもしれません。それは私だけではなく病気で亡くした多くの家族が今なお思う事なのではないでしょうか。しかし後悔して願っても現実が変わる事はない。向き合って私が変わったんです。それでも…生きてると妻に話したい事がたくさん出てきますからね、未だに寂しいですよ。

コウ 今でも指輪をされてるんですね、素敵です。

シゲ 外す理由がありませんから。

コウ いつかシゲさんの記事を書かせてくださいね。

シゲ 私のことなんか誰も読みませんって。

コウ 向き合う、今社会を生きる人に読んでほしいですよ。

シゲ じゃあ、カッコ良く書いてくださいね?

コウ 大丈夫ですよ、とてもカッコいいですから。

《病室、エリ、テレビを見ている。

画面では三崎工場の現場から中継が映されている》

エリ 凄い瓦礫……あれ?……嘘!?ミキちゃん!?

《現場、撤去作業が続く》

ミキ 報道陣が来てる…余計に混み合って到着が遅れるじゃない!報道陣も手伝いなさいよ!

カナ まさかここに手伝ってる報道の人がいるとは思わないでしょうね。

ミキ あれ、もしかして…?...そんなことより退かさないと!

メグ 現場の三崎工場です!消化は終わりましたが、どうやら瓦礫で入り口が塞がり中に人が閉じ込められているようです!今消防隊や住民の方々で瓦礫の撤去をしていますが、重機や救助隊の到着が遅れており、今懸命に人の手で救助活動が行われています!

民A 諦めるなよー!!

民B 絶対助けるからなー!!大丈夫だからなー!!

メグ また次いつ中継来てもいいように準備しておいて。進展があったら情報もカメラも逃さないでね。

ミキ (息があがる)

カナ (息があがる)

民A はぁ…はぁ…もう少しだからなぁ…!!

民B 俺らも諦めないぞ…!!

タカ っ…!!

《タカ、報道陣たちに詰め寄る》

ミキ ちょっ、タカ!

タカ あんたたちこの状況を見てて何も思わないのか!?

メグ なんですかいきなり!

タカ 何も思わないのかって聞いてんだよ!人が閉じ込められて、重機や救助ロボットの到着が遅れてるってわかってて、それなのにあんたたちはただここで見てるだけなのか!?

メグ ……報道として状況を伝えるのが私たちの仕事なんです。

タカ そんな事はわかってんだよ!俺が言ってるのは仕事の話じゃない!心の話をしてんだ!

ミキ タカ…。

タカ あんたたちは仕事でここにいるかもしれねぇが、俺たちは助けなきゃって思ってるからここにいるんだ!消防隊とかここに住んでるとか、そんなの関係ねぇ!そう思ったからここにいるんだ!

メグ ………。

タカ 重機がない…救助ロボットがいない…じゃあ誰が助けるんだ!?今助けられるのは俺たち人しかいねぇだろ!俺たちの手しかねぇだろ!俺たちの手はいったい何のためにあるんだ!

メグ 私たちの手…。

タカ 俺たちの手が人を救えるんだぞ!ロボットじゃなく俺たちの手で!人の心は何のためにあるんだ!

《沈黙後、メグ、後ろを振り返り近くにいたスタッフに話しかける》

メグ ………スタッフ全員呼んで、私たちも手伝うわよ。中継?全て終わってからよ!私の独断と言っておきなさい。この責任で助けられるならいくらでもやめてやるわよ。

タカ …ありがとう(ミキたちのところに走って戻る)

メグ 真実を伝える正義感でこの仕事を始めたけど…いつから目の前を見なくなってたんだろ…きっと先輩だったら…。ほら早く全員手伝うわよ!車は退かしなさい!

カナ アイツ、目立ちたくないって言ってたくせに。

ミキ 本当…。

タカ (走って戻ってくる)よし、やるぞ。まだやれるか?

ミキ ええ、やるわよ。

《瓦礫の撤去が進む。入り口に残ったのは、人が運べないような巨大な瓦礫》

民A くそっ!これを退かすのは…!

民B まだ救助隊は来ないのか!?さすがに人じゃ…!

ミキ そんな…。

カナ 何か方法はないの!?

タカ 方法って言ったって...。

カナ 人の手とかいいながら!あんた運べないの!?

タカ 運べるわけねぇだろ!超能力者やヒーローじゃないんだから!映画みたいにドカンといかねぇよ!

メグ 確かに…映画みたいに爆破でドカンといかない限り…。

ミキ え?

タカ え?

カナ え?

メグ え?

タカ あんた今なんて言った?

メグ だから、映画みたいに爆破でドカンといかない限り…。

ミキ それよ!!

カナ タカ!!できる!?

タカ 今準備する!!

メグ どういう事?何か方法があるの?

ミキ ワケは言えないけど、もしかしたら助けられるかも…!みなさん!!もしかしたら瓦礫をなんとかできるかもしれません!!離れてください!!

タカ 車にあるから姉ちゃんと運んでくれ、仕掛けは俺がする!慎重に運べよ!

ミキ わかった!

メグ ちょっと、何する気なの!?

タカ あんたが言った通りだよ、映画みたいにドカンさ。

メグ まさか、それ爆発するの!?

タカ ああ、ワケは言えねぇがたまたま偶然奇跡的にこれを持っててな。

メグ そんな偶然あるわけ…!あなたたち何者なのよ!

タカ ただの通りすがりの観光客だよ。みんなも危ないから下がって!!

ミキ これで全部?

カナ ええ、けど中の人が巻き込まれないようにしなきゃ。

ミキ 閉じ込められてる人と連絡取れる方はいませんか!?

民A 今メッセージ送ったら返信があった!まだ全員生きてるって!

カナ 中の人たちに入り口から離れるように伝えてください!危ないので!

民B 本当に助かるのか!?

タカ 正直上手くいくかわからねぇ、けど方法はこれしかない。

メグ ……あなたたちを信じてもいいのね?

タカ ああ、俺たちの最後の大仕事だ。

カナ タカ…そうね。

タカ 中の人たちは離れたか!?

民A ああ!今入り口から離れたって!

ミキ いける!?

タカ ああ!いくぞ!!

《タカが仕掛けた爆弾が映画以上にボカンと爆破。あまりの火力にその場にいた全員の口が開きっぱなしになる》

ミキ 火力ありすぎじゃないの!?

タカ 爆弾だぞ!そりゃ火力あるに決まってるだろ!

ミキ それにしたって、あんなの見たことないわよ!

タカ 俺だってねぇよ!

カナ 想像以上だったわね…。

メグ ………(驚いたまま)

民A おい!瓦礫が砕かれてるぞ!

民B これを退かせば!

タカ よし!このまま入り口を開けるぞ!

《その後、爆弾で砕かれた瓦礫を退かし入り口を開け、閉じ込められていた人達が全員救出。しばらくして重機や救助隊、警察が駆けつける》

ミキ 助かって本当によかったわ…。

カナ ええ、本当に…。

タカ どうなることかと…はぁーーー疲れた…。

カナ てか警察来てるし…。

ミキ そりゃ来るでしょう…むしろ遅い方よ。どうするの…?

タカ なんて説明したらいいんだろう…。

民A 事情聴取は俺たちが受けるぞ。

タカ え?

民B ワケ有りなんだろ?本当はダメなんだろうけどあんたたちは命の恩人だ。こっちでなんとかしておくから。

カナ ……ありがとうございます…!

民A こっちこそ、助けてくれて本当にありがとう!あんたたちがいなかったら助けられなかったかもしれない。

民B 本当にあんたたちのおかげだ、ありがとう。

タカ 助かって本当によかったよ。

メグ あなたたち…行くの?

カナ ええ、ワケは聞かないで。

メグ 正直あなたたちのこと報道したいんだけど…。

民A おい!それは!

メグ わかってるわよ。ヒーローとして報道できないのが残念ってだけ。

タカ いや、俺たちはヒーローなんかじゃ…。

メグ ふふっ、あなたたちは通りすがりの観光客だったわね。

タカ …あぁ、たまたま偶然奇跡的に通りかかっただけだ。

メグ 地震で観光どころじゃないでしょうけど…。ほら、早く行きなさい。

ミキ …報道陣の救助活動の参加、本当にありがとうございました。あなたの判断は間違ってないわ、人が助かったんだから。

メグ ありがとうございま…って、えぇ!?嘘!?せ、先輩!?

ミキ さて、行くわよ!

メグ ちょっと待ってください先輩!どうしてここに!?

ミキ じゃあねメグ!私がここにいたこと絶対誰にも言っちゃダメよ!

メグ え、あっ、ちょっと!……どういうことなの…先輩が…爆弾……。

《三人、車で現場を離れる》

ミキ 本当に抜け出せたわね。

カナ あの人達に感謝しなくちゃ。

タカ ......なんとかするって言ってたけど、どう説明するんだろう。

カナ まぁ、もう任せるしかないわ。

ミキ ………で、二人はこれからどうするの?

タカ どうするって…どうしよう…。

ミキ もう爆弾使っちゃったわよ?

カナ 今車には何もないわ。

タカ ………何しに来たんだ俺ら…。

ミキ 人を助けに来たのよ、タカが言ったんじゃない。

タカ え?

ミキ 助けたいと思ったから、二人の心がそう思ったからここにいた。タカとカナのおかげなのよ。

タカ 俺は…そんな…。

ミキ ………二人共さ、爆弾と一緒に死ぬつもりだったんでしょ。

カナ っ!?

タカ …なんでわかった。

ミキ 覚悟してるって、捕まる覚悟じゃなくて死ぬ覚悟なんだなって。だからタカも私に名前教えたんでしょ。どうせ、どうせ死ぬんだからって。

カナ ……最初からわかってたの…。

ミキ うん、だから二人の話を聞きたかったの。面白い話なんてないって言ってたのに思い出たくさんあったじゃない。絶望する前の事でも、たしかに思い出があった。気づいてないでしょうけど、あの時のカナいい顔してたのよ?

カナ ………。

ミキ タカもさ、報道陣に詰め寄ってあんな事言って。誘拐した人とは思えない言葉よ?人を助けたいって。あんな顔して人のために心から怒って。

タカ あれは…。

ミキ タカがそう思ったからでしょ?二人共、自分たちの目的なんかすっかり忘れてすぐ爆弾用意したじゃない。何の迷いもなく、人のために。私も忘れてたし、それくらいみんな必死だった。あの瞬間恨みや絶望なんて頭になくて、ロボットさえとかこんな社会じゃなきゃとか、全く思わなかった。諦めなかった。死のうとしてた二人がまだ生きてる人のために、私たちの手でやるんだって。タカの言う通り人の手が人を助けたの。二人がやったのよ。

タカ 俺は…。

ミキ 誰かのために必死になれるならさ、自分たちのために必死に生きれると思わない?

カナ ミキ…。

ミキ ずっと考えてた、私と二人は一緒なのかなって。結局一緒なのかどうかわからない、私の絶望と二人の絶望は違うし社会への恨みも違う、いまだに社会への答えなんて出ないまま。でもきっと、答えなんてあるわけないのかなって、答えを探すんじゃなくて向き合わなきゃいけないんじゃないかって。だから二人もさ、逃げないで。いや、逃げてもいいんだけどさ、向き合ってほしい。社会と人に。

タカ あんた、なんでそこまで俺らに…。

ミキ 生きててほしいって、私がそう思ったから。てかあなたたち、死ぬ気なくせに元気ありすぎよ。そのエネルギーがあるなら生きれるでしょ。

カナ たしかに…福岡まで車で行ける元気があるならって話ね。

タカ それ言うか?まぁ言い返せねぇけど…。

ミキ でしょ?さぁ、二人はどうするの?

カナ そうね…とりあえずは…。

タカ 風呂入りてぇ。

ミキ ふふっ、確かにそれが一番ね!あ、電話…上司からだ。

タカ え!?出るの!?

ミキ だっていつまでも行方不明にはなれないでしょう。はい、佐藤美紀です。…………はい、無事です………お願いします......はい…わかりました。…はい、大丈夫です……すみません、ありがとうございます。

タカ どうだった…?

ミキ めちゃくちゃ怒られた。

カナ そりゃそうよね…。

ミキ 話はこっちで聞くから来れる時に来いって、それだけ。

タカ それだけ!?

ミキ 捜索願は取り消してもらうって、よかったわね。

カナ え?どういうこと?

ミキ 誘拐じゃなくなるってこと。

タカ なんでだよ!爆弾はまだしも、誘拐に関しては!

ミキ これは福岡旅行!そういうことになるの、いいわね!

タカ マジかよ…じゃあ俺らは…。

ミキ ただ車で私と福岡に来ただけよ。でも問題は…また車で戻らなきゃいけないってこと…。

タカ なんで福岡まで来たんだろう…。

カナ あんたがこの工場だって言うからでしょ。

ミキ ロボットだけの工場だっけ、たしか島田工場…。

タカ あぁ、本当の目的はそこだったが、たとえあそこで爆弾使わなくても関門海峡渡れなかっただろうしどうせ行けなかったよ。

カナ そうね、福岡に車で行くためにはあそこを通らなきゃだし。

ミキ ………ちょっと待って。ねぇ、福岡の島田工場なのよね?

タカ あぁ。

ミキ ロボットしかいない?

カナ ええ。

ミキ ……本当に、ここ?(スマホで検索画面を見せる)

タカ ……ん?

カナ ……この工場小さくない?てか、ホームページに思いっきり人写ってるし。

ミキ ……ねぇ、本当にここ?

タカ 俺この工場見たことない。

カナ はぁ!?あんたがここって言ったんでしょ!?

タカ 俺の記憶じゃここだったんだよ!

カナ 記憶って何よ!計画じゃなくてなんで記憶なの!?そもそも地図を忘れたって言った時から怪しかったのよ!その地図も間違ってたんじゃないの!?

タカ 地図は合ってるけど忘れてきたから、福岡の島田工場って記憶で…。

カナ それが間違ってるんでしょ!?あんたが計画は全部任せろって私に何もさせなかったから!

ミキ 全部タカの計画なの?

カナ コイツが計画は全部自分がやるって。

ミキ あんたもしかして…見つかったときに

タカ うるせぇそれ以上言うな!

ミキ 全く…。

タカ じゃあ本当はどこだったんだ…。

《同時刻、コウとシゲ、目的地に到着》

シゲ 着きました、福島の岡田工場…誰もいない…。

コウ 到着が遅れてるんでしょうか…。

シゲ 追いつけるかどうか心配しましたが…ここで到着を待ちましょう。

コウ ええ、必ずここに来るはずです…ミキさんを連れて…。

シゲ ここに隠れて待ち伏せしましょう。

コウ 暗いですね……シゲさん、これ逆に僕たちの方が怪しくないですか?

シゲ 大丈夫です、これは捜査ですから。この岡田工場で何かを企んでいる可能性がある以上こちらも警戒しなければ。

《数日後、エリの病室。ミキとコウが見舞いに来ている》

エリ 本当に無事でよかったぁ…。

コウ どこにいたのか教えてくれないんですよ。

ミキ 本当は心配かけたみんなに言わなきゃいけないんだけど、話せなくて…本当ごめんね…?

エリ ミキちゃんの事だから理由があるんだろうし、無事ならいいんだよ。

コウ シゲさんと一緒に福島まで行ったんですけど、あの姉弟とミキさんが全然来ないから…。

ミキ え?福島?

コウ はい、福島の岡田工場と推測して待っていたんですが…。

ミキ 福島の岡田工場…あぁ…そういうこと…。

コウ どうしました?

ミキ いえ、何も…!そういえば、あの二人は…?

コウ シゲさんが事情聴取をしたそうなんですが、ミキさんが仰る通り誘拐ではないと…。ミキさんの証言もあり目撃者もいなかったので今回は…。

ミキ そうですか!よかったぁ…。

コウ 本当あの二人とどういう関係なんですか…。

ミキ 言ったじゃないですか、友達って。

エリ ミキちゃんのお友達かぁ、気になるなぁ。

ミキ 面白いわよ、凄い変わってるけど。

コウ あ、もうこんな時間…すみません、そろそろ失礼しますね。

ミキ この後も取材ですか?

コウ いえ、今日はもう仕事はないんですが、これからシゲさんと飲む予定がありまして。

ミキ あら、そうなんですね!シゲさんにもありがとうございましたとお伝えください、次は私も。

コウ はい、是非。ではエリさん、お邪魔しました。

エリ はい!来てくださってありがとうございます!

コウ あの……また、来てもいいですか?

エリ え?は、はい!いつでも!!

コウ また、来ますね。

《コウ、笑顔で退出》

ミキ ……ちょっと、私がいない間に何があったのよ!いつのまに進展したの!?

エリ 何もないよ!私が一番驚いてるもん…。

ミキ コウさんもやっと自覚してきたのね…これは楽しみですなぁ。

エリ もう!そうやってからかうんだからぁ!

ミキ 幸せでいいことじゃない!

エリ そうだけど…あっ、そうだミキちゃん。

ミキ ん?

エリ もしかしてミキちゃん…あの時三崎工場にいた?

ミキ え!?さ、さぁ〜…。

エリ 中継見てたけど、ミキちゃんに凄い似てた人が映ってたから…。

ミキ 多分そっくりさんよその人!

エリ 帽子被ってたからよく見えなかったけど…凄い似てたんだよなぁ…。

ミキ き、気のせいよ!うん!

エリ そういえば不思議な話があって!三崎工場で人が救出されたときに大きな音がしたらしいんだけど、それがなんだったのかって今話題になってるんだよね。救助に参加した人たちも全員わからないって。

ミキ へ、へぇ〜…。不思議ねぇ〜…。

エリ でしょう?現場には地面が焦げた跡が凄いあったらしいんだけど、消防隊が火事の跡だろうって。救助された人達もなんともなくて、不思議な話って今ネットで盛り上がってるらしいの。

ミキ エリ凄い詳しいのね…。

エリ ずっとニュース見てたからね、ミキちゃんに似てた人もう一度映らないかなぁって。そうだミキちゃん仕事の方はあれからどうなの?

ミキ もうめちゃくちゃ怒られたわ、そりゃ当たり前なんだけど。上司に全て事情を話したら、とても信じられない話なのにわかってくれて…。

エリ じゃあ仕事は続くのね?

ミキ ええ、降板もなし。正直こんなのクビよクビ、でも体調不良ってことにしてくれたの。メディアに携わっておいてどうかと思うけど、本当に感謝しかないわ…。そう!あともう一つ感謝しなきゃいけないことがあるの。

エリ もう一つ?

ミキ ええ、新人を二人入れてくれたのよ。

《数週間後、生放送の現場にミキとタカとカナがいる。CMの合間》

タカ マジでこの仕事キツすぎだろ…あんたもよくやるな…。

カナ いつもこんな感じだとさすがに疲れるわ…。

ミキ ADは疲れるでしょうね。早く二人には慣れてもらわないと!私と約束したんだから。

タカ 拐ったお詫びにここで働いて生きろ、だろ?

カナ ミキっていったいどんな権限持ってるのよ…。

ミキ 全部上司のおかげ、私にもだけどあの人にも感謝しなさいよ?

タカ もちろん感謝してるよ、でもあの人超怖えよ…。

カナ 父さんより怖いかも…。

タカ 確かに…。

ミキ でも二人ともすぐみんなに気に入られたじゃない。

タカ おかげでヘトヘトだよ…体力には自信あったんだけど…。

カナ 特にタカは雑用凄いわよね…。

ミキ そろそろ時間…。さぁ、始まるわよ!準備準備!

タカ ……あいつ本当すげぇな…。

カナ さすが佐藤美紀…。

《CMが終わるカウントが始まり、再び放送が始まる。ミキ、スタジオで椅子に座りながらカメラを見つめる》

ミキ 続いてはロボット社会の未来についての特集です。今回の取材で明るい事だけではなく今我々が抱える問題など様々な事が見えてきました。この社会をどう向き合い生きていくのか、我々にできる事を考えていきたいと思います。











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