top of page
検索
  • 執筆者の写真高田

ISiS/Prologue_高田えぬひろ

更新日:2020年6月28日

 


ISiS/prologue

作者:高田えぬひろ

不問1:

男性1:

所要時間:10分~15分


改変・創作等自由に行って頂いて構いません。原作以外のものに関しては一切責任を負いません。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



不問1:君は“神”の存在を信じていますか。


男性1:なんだ、藪から棒に。


不問1:少しお喋りをしたくなったんですよ。


男性1:…“神”とは概念だ。「存在するのか否か」という類のものではない。


不問1:ふむ。


男性1:そもそも“神”の存在は証明できない。


不問1:例えば、宇宙論的には、すべての現象の原因を辿った先には神の存在が不可欠であるため、“神”は存在するとの論があります。ニュートンが、太陽系のモデルを用いて、神の存在を証明した逸話も有名です。


男性1:詭弁だ。元々持っていた物理的な性質が、偶々(たまたま)合致しただけだ。“偶々”まで全て神によるものだと言うならば、最早議論する意味はない。


不問1:それでは、それら“神”の存在を数百年もの間議論している我々人類が、“神”自身を作ることは可能でしょうか。


男性1:本末転倒だ。人間に作られたのであれば、それはもう“神”じゃない。人間に作られたものが到達できるのは、精々人間が想像できる限界までだ。


不問1:なるほど。


男性1:…。


不問1:…。


男性1:…お前が言いたいことはわかる。ISiS(イシス)のことだろう。


不問1:君がここに居る理由でもありますからね。“神”の存在をそこまで否定している君でもISiSの絶対性には疑う目を向けない。


男性1:Integrative Surveillance System(インテグレイティブ サービュランス システム)、ISiS。連合国民を統合的に管理し、起こりうる障害を事前に排除するシステム。あくまでシステムだ。デジタルなものであり、人間によって作られたものだ。“神”ではない。何ら矛盾しない。


不問1:私の目には、君たち公安機関は“神”のようにISiSを信仰し、その判断に忠実に従っているように見えるのですが。


男性1:ISiSの中には、連合国内で起きた犯罪者のデータが蓄積されている。そのビッグデータをもとに統計的に判断しているシステムだ。完全に主観を除いた合理的な判断が下せるのだから、我々がISiSを用いるのはごく自然なことだ。


不問1:そうでしょうか。そもそもISiSが人に作られたものであるならば、設計者の主観が必ず入っています。また犯罪行動の基準に関しても必ずどこかで、誰かの主観が入る。


男性1:詭弁だ。この連合国民全体を監視するためには、どこかで線を引く必要がある。


不問1:それこそ詭弁ですよ。それに、君はさっきから、自分で“神”への信仰を告白している。


男性1:意味がわからないよ。


不問1:カントは実践理性批判にて“神”を「論理的な存在証明は不可能にしろ、道徳的に存在が必然とされる最高善の対象として、存在が“要請”される」ものとして位置付けています。


男性1:…。


不問1:ベンサムの最大多数の最大幸福をもとにして運営されている現連合国は、文字通り客観的な判断により全体の最大限の幸福を追求する。そしてその最高善の基準として、ISiSが社会に要請されている。


男性1:…。


不問1:1つの絶対的な価値基準として存在しているので、君が最初に言っていた「神は概念である」という言葉にも矛盾しません。


男性1:…だが、ISiSは存在している。


不問1:良かったじゃないですか。有象無象の“神”よりも、はるかに容易に信じることができますね。


男性1:…。


不問1:…。


男性1:…何が言いたいんだ。


不問1:ただのお喋りですよ。


男性1:この議論には何も意味はない。


不問1:そんなことはありませんよ。


男性1:…。


不問1:少なくとも、確認ができました。


男性1:…?


不問1:君たちのようにシステムの最も近くにいる公安機関ですら、ISiSを神のように信仰し、自分の意志を持たずにただ行動している。


男性1:…。


不問1:やっぱり君たちに、この国は任せられませんね。


男性1:何を言っている。


不問1:例えばですが。


不問1、男性1の左手の甲にナイフを突きつける。


男性1:うがあっ…!な、なにをする!!


男性1、立ち上がり、不問1に殴り掛かる。


不問1:おっと。いきなり殴りかかってくるなんて。数値が悪化しますよ。


男性1:き、貴様…!


不問1:今行ったように、私が君の手の甲にナイフを突き立てたとします。この場合、どうなりますか。


男性1:ふざけるな!執行だ!ISiS起動、数値測定!


不問1:急いては事を仕損じますよ。


男性1:スケーラーを取り上げなかったのは失策だったな!終わりだ!


不問1:…。


男性1:…。


不問1:ほら。


男性1:…なぜだ。


不問1:このように、私にそのスケーラーを向けても数値の悪化は確認できません。


男性1:あり得ない!


不問1:起こっていますがね。


男性1:そ、そうか。ここは電波暗室なんだな?ゆえに正確な計測が行えない!


不問1:電波暗室であるならば、数値測定用のスケーラーは起動すらできませんよ。それに…


不問1、男性1からスケーラーを取り上げる。


男性1:なっ!か、かえせ!


不問1:このように、私に殴り掛かってきた君にスケーラーを向けると、おや。数値の悪化が確認されましたね、もうすぐで執行対象ですよ。


男性1:なん…


不問1:不思議ですね。君は正義を守る公安機関、対する私は君を誘拐しナイフを突き立てた犯罪者。


男性1:なぜ貴様がスケーラーを起動できる…


不問1:さぁ。しかし、まずは何故このようなことが起きるのかを考えてみませんか。


男性1:うるさい!執行だ…執行だぁぁあ!


不問1男性1を蹴り倒す。


男性1:んがぁ!


不問1:まず、スケーラーとは、何をもとに数値を決定しているのでしょうか。


男性1:スケーラーを返せ!


男性1が不問1に殴り掛かる


不問1:はっ!(男性1の顔面に正拳)


男性1:がアッ!


不問1:ISiSが判断の基準として過去の犯罪者のデータを用いているのは、先ほどご説明頂いた通りです。ですが、その内訳はどうなっているのでしょうか。


男性1:あああああ!


不問1に男性1がつかみかかる


不問1:ふっ!


不問1、男1を肘で打つ


不問1:ISiSが収集しているデータは、犯罪者の行動データ並びに犯罪時の代謝活性等の生化学的・細胞生物学的な変化のデータです。それらが我々の行動・活性と合致したときに数値の悪化が発生します。


不問1、男性1を蹴り続けながら続ける。


男性1:が…!ア…!


不問1:ISiSには信じられないほど膨大なデータが蓄積されビッグデータ化している。それらを基準にして判断を行うわけですが、確率論的にそこには必ず一つの弱点が存在します。


不問1、蹴るのをやめる。


男性1:…それが、貴様か…。


不問1:…まぁ、私だけというわけではありませんが、必ず例外、今までなかったタイプ、想定外の個体というものは発生してくるものです。そうなったとき、過去の事態からは判断ができず、私の数値は計測できない。そう考えています。


男性1:…。


不問1、歩きながら男性1に背を向ける。男性1は動かない


不問1:だが、そのような事態に面したとき、君たちは為すすべを持たない。あまりにも脆弱だ。


男性1、気づかれないように左手に刺さったナイフを抜き、構える。


不問1:そんな君たちに、この国の未来など任せられない。


男性1:…貴様にもだぁぁあ!!


男性1、ナイフを振りかぶり不意打ちを狙う。


不問1、スケーラーを向ける。


不問1:さようなら。


不問1、スケーラーのトリガーを引く


男性1の頸椎に埋め込まれたチップから一酸化炭素が放出される。


不問1:…犯罪者。


男性1:あ…。


男性1、倒れる。


不問1:ふぅ…。


男性1:…。


不問1、頭をわしゃわしゃ書きながら椅子にすわる。


不問1:やはりこの世界は間違っている。


男性1:…。


不問1:この人は私の都合で誘拐され、監禁され、少しの戯れの後に、私の都合で殺された。


男性1:…。


不問1:いいのかい、システムよ。このままだと、私がこの国を壊してしまうよ。


男性1:…。


不問1:…まぁ、いいや。私にスケーラーを使わせるのにも、何か理由があるんだろう。


男性1:…。


不問1:…ふぅ。面白そうだ。これからが。

閲覧数:886回0件のコメント

最新記事

すべて表示

ISiS /Case.1_高田えぬひろ

ISiS /Case.1 作者:高田えぬひろ 所要時間…約90分 百瀬護煕(ももせ もりひろ)/不問: 先生/不問: 神代アラタ(かみしろ あらた)/二級書記官1♂: 眞南ショウ(まなみ しょう)/二級書記官2♂: 安延ミワ(やすのべ みわ)/女1/スケーラー♀: ウチタチ/男1♂: 丑寅ガク(うしとら がく)/♂: 高橋ジュカ(たかはし じゅか)♀: 兼ね役:男2 Scene 1 〇新宿廃棄区画

ISiS /Case.1_後編_高田えぬひろ

ISiS /Case.1-後編- 作者:高田えぬひろ 所要時間…約45分 百瀬護煕(ももせ もりひろ)/不問: 先生/不問: 神代アラタ(かみしろ あらた)/二級書記官 1♂: 眞南ショウ(まなみ しょう)/二級書記官 2♂: 安延ミワ(やすのべ みわ)/スケーラー♀: 丑寅ガク(うしとら がく)/♂: 高橋ジュカ(たかはし じゅか)♀: 〇聖護院司法学校 アラタ:(あくび) ガク:眠そうだね、ア

ISiS/Prologue_不問ver.

ISIS/prologue 作者:高田えぬひろ 所要時間…約15分 不問1: 女性1: ※語尾改変等は自由に。原作の著作権は高田えぬひろに帰属しますが、改変・創作等自由に行って頂いて構いません。原作以外のものに関しては一切責任を負いません。 不問1:君は“神”の存在を信じていますか。 女性1:なに、藪から棒に。 不問1:少しお喋りをしたくなったんですよ。 女性1:…“神”とは概念。「存在するのか否

bottom of page