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  • 執筆者の写真高田

ISiS/Prologue_不問ver.

ISIS/prologue

作者:高田えぬひろ

所要時間…約15分

不問1:

女性1:

※語尾改変等は自由に。原作の著作権は高田えぬひろに帰属しますが、改変・創作等自由に行って頂いて構いません。原作以外のものに関しては一切責任を負いません。




不問1:君は“神”の存在を信じていますか。

女性1:なに、藪から棒に。

不問1:少しお喋りをしたくなったんですよ。

女性1:…“神”とは概念。「存在するのか否か」という類のものじゃない。

不問1:ふむ。

女性1:そもそも“神”の存在は照明できない。

不問1:例えば、宇宙論的には、すべての現象の原因を辿った先には神の存在が不可欠であるため、“神”は存在するとの論があります。ニュートンが、太陽系のモデルを用いて、神の存在を証明した逸話も有名です。

女性1:詭弁ね。元々持っていた物理的な性質が、偶々(たまたま)合致しただけ。“偶々”まで全て神によるものだと言うならば、最早議論する意味なんてない。

不問1:それでは、それら“神”の存在を数百年もの間議論している我々人類が、“神”自身を作ることは可能でしょうか。

女性1:本末転倒よ。人間に作られたのなら、それはもう“神”じゃない。人間に作られたものが到達できるのは、精々人間が想像できる限界までよ。

不問1:なるほど。

女性1:…。

不問1:…。

女性1:…あなたが言いたいことはわかる。ISiS(イシス)のことでしょ。

不問1:君がここに居る理由でもありますからね。“神”の存在をそこまで否定している君でもISiSの絶対性には疑う目を向けない。

女性1:Integrative Surveillance System(インテグレイティブ サービュランス システム)、ISiS。連合国民を統合的に管理し、起こりうる障害を事前に排除するシステム。あくまでシステムなの。デジタルなものであり、人間によって作られたもの。“神”ではない。何も矛盾しない。

不問1:私の目には、君たち公安機関は“神”のようにISiSを信仰し、その判断に忠実に従っているように見えるのですが。

女性1:ISiSの中には、連合国内で起きた犯罪者のデータが蓄積されてる。そのビッグデータをもとに統計的に判断しているシステムよ。完全に主観を除いた合理的な判断が下せるのだから、私たちがISiSを用いるのはごく自然なことでしょ。

不問1:そうでしょうか。そもそもISiSが人に作られたものであるならば、設計者の主観が必ず入っています。また犯罪行動の基準に関しても必ずどこかで、誰かの主観が入る。

女性1:詭弁よ。この連合国民全体を監視するためには、どこかで線を引く必要がある。

不問1:それこそ詭弁ですよ。それに、君はさっきから、自分で“神”への信仰を告白している。

女性1:意味がわからない。

不問1:カントは実践理性批判にて“神”を「論理的な存在証明は不可能にしろ、道徳的に存在が必然とされる最高善の対象として、存在が“要請”される」もの、として位置付けています。

女性1:…。

不問1:ベンサムの最大多数の最大幸福をもとにして運営されている現連合国は、文字通り客観的な判断により、全体の最大限の幸福を追求する。そしてその最高善の基準として、ISiSが社会に要請されている。

女性1:…。

不問1:1つの絶対的な価値基準として存在しているので、君が最初に行っていた「神は概念である」という言葉にも矛盾しません。

女性1:…でも、ISiSは存在している。

不問1:良かったじゃないですか。有象無象の“神”よりも、はるかに容易に信じることができますね。

女性1:…。

不問1:…。

女性1:…何が言いたいの。

不問1:ただのお喋りですよ。

女性1:この議論には何も意味はない。

不問1:そんなことはありませんよ。

女性1:…。

不問1:少なくとも、確認ができました。

女性1:…?

不問1:君たちのようにシステムの最も近くにいる公安機関ですら、ISiSを神のように信仰し、自分の意志を持たずにただ行動している。

女性1:…。

不問1:やっぱり君たちに、この国は任せられませんね。

女性1:何をー

不問1:例えばですが。



<不問1、女性1の左手の甲にナイフを突きつける。>



女性1:があっ…!な、なにを…!!

女性1、立ち上がり、不問1に殴り掛かる。

不問1:おっと。いきなり殴りかかってくるなんて。数値が悪化しますよ。

女性1:き、貴様…!

不問1:今行ったように、私が君の手の甲にナイフを突き立てたとします。この場合、どうなりますか。

女性1:ふざけないで!執行よ!ISiS起動、数値測定!

不問1:急いては事を仕損じますよ。

女性1:スケーラーを取り上げなかったのは失策だったわね!これで終わり!

不問1:…。

女性1:…。

不問1:ほら。

女性1:…なぜ。

不問1:このように、私にそのスケーラーを向けても数値の悪化は確認できません。

女性1:あり得ない!

不問1:起こっていますがね。

女性1:わ、わかった。ここは電波暗室なのね?だから正確な計測が行えない!

不問1:電波暗室であるならば、数値測定用のスケーラーは起動すらできませんよ。それに…

不問1、女性1からスケーラーを取り上げる。

女性1:なっ!か、かえせ!

不問1:このように、私に殴り掛かってきた君にスケーラーを向けると、おや。数値の悪化が確認されましたね、もうすぐで執行対象ですよ。

女性1:なん…

不問1:不思議ですね。君は正義を守る公安機関、対する私は君を誘拐しナイフを突き立てた犯罪者。

女性1:なぜ貴様がスケーラーを起動できる…

不問1:さぁ。しかし、まずは何故このようなことが起きるのかを考えてみませんか。

女性1:うるさい!執行…執行ぉぉお!



<不問1女性1を蹴り倒す。>



女性1:んがぁ!

不問1:まず、スケーラーとは、何をもとに数値を決定しているのでしょうか。

女性1:スケーラーを返しなさい!



<女性1が不問1に殴り掛かる>




不問1:はっ!(女性1の顔面に正拳)

女性1:がアッ!

不問1:ISiSが判断の基準として過去の犯罪者のデータを用いているのは、先ほどご説明頂いた通りです。ですが、その内訳はどうなっているのでしょうか。

女性1:あああああ!



< 不問1に女性1がつかみかかる>



不問1:ふっ!



<不問1、女性1を肘で打つ>



不問1:ISiSが収集しているデータは、犯罪者の行動データ並びに犯罪時の代謝活性等の生化学的・細胞生物学的な変化のデータです。それらが我々の行動・活性と合致したときに数値の悪化が発生します。



<不問1、女性1を蹴り続けながら続ける。>



女性1:が…!ア…!

不問1:ISiSには信じられないほど膨大なデータが蓄積されビッグデータ化している。それらを基準にして判断を行うわけですが、確率論的にそこには必ず一つの弱点が存在します。



<不問1、蹴るのをやめる。>



女性1:…それが、アナタ…。

不問1:…まぁ、私だけというわけではありませんが、必ず例外、今までなかったタイプ、想定外の個体というものは発生してくるものです。そうなったとき、過去の事態からは判断ができず、私の数値は計測できない。そう考えています。

女性1:…。



<不問1、歩きながら女性1に背を向ける。女性1は動かない>



不問1:だが、そのような事態に面したとき、君たちは為すすべを持たない。あまりにも脆弱だ。



<女性1、気づかれないように左手に刺さったナイフを抜き、構える。>



不問1:そんな君たちに、この国の未来など任せられない。

女性1:…あぁぁぁっぁぁあ!!



<女性1、ナイフを振りかぶり不意打ちを狙う。>

<不問1、スケーラーを向ける。>



不問1:黙っていてください。



<不問1、スケーラーのトリガーを引く>

<女性1の頸椎に埋め込まれたチップから一酸化炭素が放出される。>

不問1:…犯罪者。

女性1:あ…。




<女性1、倒れる。>



不問1:ふぅ…。

女性1:…。



<不問1、頭をわしゃわしゃ書きながら椅子にすわる。>



不問1:やはりこの世界は間違っている。

女性1:…。

不問1:この人は私の都合で誘拐され、監禁され、少しの戯れの後に、私の都合で殺された。

女性1:…。

不問1:いいのかい、システムよ。このままだと、私がこの国を壊してしまうよ。

女性1:…。

不問1:…まぁ、いいや。私にスケーラーを使わせるのにも、何か理由があるんだろう。

女性1:…。

不問1:…ふぅ。面白そうだ。これからが。

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